歯科医院のホームページをご覧になると、院長をはじめ歯科衛生士やスタッフ全員の名前と顔写真がずらりと並んでいるのをよく目にするかと思います。今やそれは歯科医院のホームページにおける”当たり前”のように扱われています。
しかし、当院のホームページにはスタッフの名前も顔写真も掲載していません。「なぜ載っていないのだろう?」と疑問に思われた方もいらっしゃるかもしれません。これは手抜きでも、隠しているものがあるわけでもありません。明確な理由と、スタッフへの思いがあってのことです。この場を借りて、その考えをきちんとお伝えしたいと思います。
第一の理由:スタッフのプライバシーと安全を守るために
最も大きな理由は、従業員のプライバシー保護と、安心・安全に働ける職場環境をつくることです。
SNSが日常に深く根付いた現代において、氏名・顔写真・職場名をインターネット上に公開することには、想像以上に高いリスクが伴います。一度ネット上に出た情報は、本人の知らないところで拡散・保存され、完全に消し去ることはほぼ不可能です。
たとえば、氏名と顔写真と職場が揃えば、SNSでの特定、ストーカー被害、誹謗中傷といったトラブルに発展する可能性があります。これは決して大げさな話ではなく、医療・福祉・サービス業の現場では実際に起きていることです。私自身もこれまでの勤務の経験の中で、直接的にそのようなトラブルを目の当たりにしてきました。
自身のそのような経験からも、雇用主の判断でインターネット上に個人情報をさらすことの重大さを、軽く考えるべきではないと思っています。
当院のスタッフには、患者さんの治療に集中できる環境で、毎日安心して働いてほしい。その思いが、この判断の根底にあります。
第二の理由:医療の本質とは何か、を考えたとき
そもそも歯科医院がホームページを持つ意義は何でしょうか。それは、どのような医療を提供しているかを正しく伝え、来院を検討されている患者さんに判断材料を提供することだと考えています。
治療内容、使用する機器、院内の設備、診療の考え方——こうした情報こそが、患者さんにとって本当に必要な情報ではないでしょうか。スタッフ全員の名前と顔写真の掲載が、適正な医療の提供と直接結びつくとはどうしても思えません。
なお、責任者である院長については、医療機関としての説明責任の観点から、ホームページに名前を掲載しています。医院の診療方針や治療の責任は院長が担うものであり、それを明示することは当然のことだと考えています。
第三の理由:「歯科業界の常識」に流されないために
ホームページ制作会社から、こんな説明を受けたことがあります。「スタッフの名前や顔写真を掲載すると、Googleからの信頼の評価が増し、SEO対策(検索エンジンの順位を上げるための施策)でも有利になります」と。
確かに、マーケティングの観点からはそうかもしれません。しかし、集患・宣伝のために従業員のプライバシーをさらし、リスクを負わせることに強い疑問を感じていることは、前述のとおりです。
また、歯科業界全体を見渡してみると、多くの医院がホームページ制作会社の提案をそのまま受け入れ、「他の医院もやっているから」という雰囲気のなかで、スタッフの顔と名前を公開し続けているように見えます。その意味や意義、そしてリスクについて立ち止まって考えないまま、惰性で続けているケースも少なくないのではないでしょうか。
当院はそうした”歯科業界のなんとなくの常識”には従わないことにしました。
そもそも院長以外のスタッフの顔写真や名前を積極的に載せているのは、歯科医院と一部のSNSで集客を行っている美容系医療の医院です。大学病院・公立病院・医科の医院・薬剤師のいる薬局など、一般的な医療を提供する施設のホームページでは、スタッフが掲載されていることはほとんどありません。
歯科医師や歯科衛生士・スタッフがAI加工され満面の作り笑顔で並んでいる写真を見ると、自分であればそんな職場ではまったく働きたくありませんし、それが医療機関としてあるべき姿なのかと疑問を感じてしまいます。
最後に
スタッフの顔が見えないことで、「どんな人が働いているのかわからない」と不安に感じる方もいらっしゃるかもしれません。その気持ちはよく理解できます。
ただ、当院では来院いただいた際に、スタッフが直接ご挨拶し、丁寧にコミュニケーションをとることを大切にしています。信頼関係は、インターネット上の顔写真ではなく、実際の診療を通じて築かれるものだと信じているからです。
ホームページを通じて伝えられることには限界があります。だからこそ、足を運んでいただいたすべての患者さんに、誠実な医療と温かい対応をお届けすることを何より大切なことだと考えています。
どうぞ安心してご来院ください。
院長 : 大村 和久









